日本の雷神(かみがみ)|古代から信仰されてきた雷・稲妻の力
日本の神話には、雷鳴や稲光を神格化した多くの雷神が登場します。雷の猛威を恐れる一方で、雨をもたらす恵みの象徴としても崇敬され、農耕・武威・浄化など多様な役割を担いました。本項では、日本で伝承されてきた雷の神々を、由来と特徴とともに紹介します。
- 雷神(らいじん)
日本で最も代表的な雷の神。雷鼓を叩いて雷鳴を起こす鬼神として描かれ、暴風雨の恐怖と、稲作に必要な雨の恵みの両面を司る。 - 味耜高彦根神(あじすきたかひこねのかみ)
大国主神の子で、農耕神であると同時に稲妻の神格とされる。幼少期の泣き声が雷鳴のようだったという伝承を持ち、雷・豊穣の力を象徴する。 - 建御雷神(たけみかづちのかみ)
稲妻と剣を司る武神。国譲り神話で地上に降り、雷光のような武威を示したとされる。鹿島神宮・春日大社の主祭神で、日本を代表する雷神の一柱。 - 八雷神(やいかづちのかみ)
黄泉国で伊耶那美命の遺体から生まれた八柱の雷神。大雷・火雷・黒雷・析雷・若雷・土雷・鳴雷・伏雷の総称で、それぞれが異なる雷や災厄の性質を担う。 - 素戔嗚尊(すさのおのみこと)
嵐と海を司る神だが、暴風雨・雷鳴を伴う性質から「雷神的側面」を持つと解釈される。天変地異をもたらす荒ぶる力と、農耕の守護という二面性を持つ。 - 火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)
名の通り「火」と「雷」を併せ持つ古い雷神。雷の猛威と、そこからもたらされる雨の恵みが信仰の源とされ、律令時代には宮中でも祀られた。 - 賀茂別雷命(かもわけいかづちのみこと)
上賀茂神社の主祭神で「若々しい雷」を象徴する神。雷の力を浄化・守護の力として捉え、古代から朝廷・貴族に深く崇敬された。 - 菅原道真(すがわらのみちざね)
死後、その怨霊が雷となって都を襲ったとされ、後に「天神」として鎮魂・祈雨の神格へ昇華された。雷を操る神霊として恐れ敬われる。 - 火雷天気毒王(からいてんきどくおう)
北野の地に古くから祀られた雷神で、後に天神信仰に組み込まれた神格。『北野天神縁起絵巻』では、巨大な太鼓を打ち鳴らして雷を起こす鬼神として描かれる。
東南アジアの雷・稲妻の神々(Southeast Asia)
フィリピンのさまざまな民族神話には、雷・稲妻そのものや、それを操る神・精霊が多数登場します。地域・言語ごとに呼称や性格が異なるため、「雷=自然現象」そのものを神聖視するケースも多いです。
- Kidlat(キドゥラット / キッドラット) – “雷”そのもの(タガログ神話)
フィリピン・タガログの神話において、「雷(lightning/thunderbolt)」を指す言葉そのものが神聖視され、Kidlat と呼ばれることがあります。つまり、雷を人格化した、ある種の自然神・自然現象の神格化と考えられます。 - Gugurang(ググラン) – 雷と火山の主(バイコルなどの民話)
地域によっては雷だけでなく、火山活動や地震と結びつく神として語られることがあります。雷による畏怖と、大地の変動・火山という破壊/再生の力を象徴する存在と捉えられるようです。 - Linti(リンティ) – 稲妻の人格化
雷光や稲妻そのものを精霊または神格として扱う伝承があり、自然現象そのものに対する畏敬を示す存在。地域・伝承によって異なりますが、雷雨や稲妻を生み出す力を象徴します。 - Dalodog(ダロドグ) – 雷鳴の精霊
稲妻ではなく「雷鳴」「とどろき」としての雷の側面を司る精霊・神格。空に響く轟音や嵐の前触れを司り、人々はその音を自然や神々の意思の表れと見做した可能性があります。 - Ribung Linti(リブング・リンティ) – “雷の子”
“Linti(稲妻)”に由来する名で、「雷の子」「雷から生まれた者」として語られる精霊・神格。稲妻や雷雨の発生源、または雷の化身のひとつと考えられています。 - Anit / Anitan(アニット/アニタン) – 雷の精霊
フィリピンの一部の民族伝承で、雷や嵐の精霊として信仰される存在。自然と人間、天地の秩序をつなぐ媒介としてのスピリチュアルな存在とされることが多いようです。 - Spirit of Lightning and Thunder(テドゥライ/雷と稲妻の精霊) – 雷・稲妻の精霊(Teduray など)
フィリピン・テドゥライ族などに伝わる、雷と稲妻そのものを司る精霊。稲妻の閃光、雷鳴、嵐の到来など、自然の雷現象をすべて包含する存在として認識されてきました。
オセアニアの雷・稲妻の神々:ポリネシア/豪州先住民
太平洋の島々やオーストラリア先住民社会にも、雷や稲妻、嵐、天候を司る神・精霊の伝承があり、自然と人間の関係性や天地の秩序を象徴する重要な存在とされました。
- Haikili(ハイキリ)
ポリネシアの雷神
ポリネシア神話で雷を司る神のひとり。雷・嵐・空の力を象徴し、海や島々を渡る人々にとっては、自然の猛威と恵みの両面を持つ重要な神格です。 - Tāwhaki(ターファキ)
稲妻と光を操る英雄/半神
ポリネシア(特にマオリなど含む広域)で語られる伝説の人物で、雷・稲妻・光を操る能力を持つとされます。しばしば天空への昇天や霊的な旅と関係づけられ、人間と神々/祖先との媒介としての役割を持つ存在です。 - Te Uira(テ・ウイラ)
“雷・電光”の神(マオリ神話)
ニュージーランドのマオリ神話において、雷や電光を人格化した atua(神・霊)的存在。稲妻そのものを司り、その子孫や関連する精霊たちもまた雷に関わるとされます。 - Nan Sapwe(ナン・サプウェ)
稲妻を投げる神(ポンペイなどミクロネシア)
ポンペイ島(ミクロネシア)などに伝わる雷神で、稲妻を武器として振るう存在とされます。雷鳴・稲妻を通じて自然の力や神々の意志を地上に示す神格。 - Mamaragan(ママラガン / ナマールコンなど)
オーストラリア先住民(クンウィンク) の雷神
オーストラリア北部の先住民クンウィンク族の伝承にある雷/稲妻の祖霊(アンス トラル・ビーイング)。雲の上に乗り、稲妻を槍のように人や木々に投げるとされ、「雷の声は彼の言葉」「稲妻は彼の矢」と語られます。
アメリカ大陸の雷・稲妻の神々(Americas)
- Thunderbird(サンダーバード)
北米先住民の伝説に伝わる雷を起こす巨大な神鳥。翼を広げることで雷鳴が轟き、目や嘴、翼から稲妻を放つとも言われる。部族によっては、雷と嵐を操る守護者/戦う存在/自然の力そのものの象徴として崇められてきた。 - Chaac(チャーク)
古代マヤ文明における雨・雷・稲妻と嵐の神。稲妻の斧を用いて雲を叩き、雷雨を起こすとされ、農耕社会においては作物の成長と豊穣をもたらす重要な神格。複数の「チャーク」(方向ごとに異なる色・属性を持つ)が存在したとされる。 - Yopaat(ヨパート)
マヤ地域(特に古典期の都市国家圏)で信仰された雷神/嵐の神。石器の武器(雷斧)を携え、特に激しい稲妻や嵐、あるいはそれに伴う地震のような自然現象を司るとされた。ヨパートへの信仰は、古典期の一部地域で王権と結びついていたともされる。 - Cocijo(コシホ)
古代メキシコ南部、ザポテック文明における雨・雷・稲妻の神。名前自体が「雷」「稲妻」を意味し、水・空・雲・稲妻の象徴として崇拝された。ザポテック文化では主要な神格であり、創造神的側面も持ち、雨だけでなく天地や天体、自然のあらゆるものの創造を担う神とされた。 - Tlaloc(トラロック)
テノチティトランを中心とした古代アステカ文明で信仰された雨・雷・稲妻・嵐の神。水・雨を司る生命の神であると同時に、雷・稲妻・雹など破壊性を持つ天候現象をも扱う畏怖される神格。儀礼や祭祀・供物が頻繁に行われ、水をもたらす/奪う両面性を持つ存在だった。
雷神は“恐怖と敬意の象徴”
雷神の姿は文化ごとにまったく異なりますが、共通しているのは「人間が自然の脅威に意味を与えようとした」という点です。
ゼウス、インドラ、雷公、シャンゴ…それぞれの雷神は、その土地の価値観や祈りを反映した象徴でもあります。
この記事をきっかけに、気になる神や文化についてさらに調べると、神話の世界がより深まっていくはずです。
FAQ よくある質問
世界の雷神にはどんな神がいますか?
世界の雷神には、ギリシャ神話のゼウス、インド神話のインドラ、日本の雷神・雷公、北欧神話のトール、アフリカのシャンゴなどがいます。文化によって姿や性質が異なりますが、共通して「雷・稲妻・嵐」を司る神として語られています。
雷神とはどのような神を指しますか?
雷神とは、雷や稲妻、嵐の力を象徴し、それらを支配すると信じられてきた神の総称です。自然の脅威を説明するために生まれた存在で、多くの文化で“最強クラスの神”として崇められています。

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