九字護身法とは、修験道の一環として行われる、九つの文字「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と九種類の印を使い、災難を退け戦いに勝つよう祈念する作法です。この方法は「九字切り」とも呼ばれます。
元々は仏教の正式な作法ではなく、道教の六甲秘呪などが混じり合い、日本独自の伝統として発展しました。中世には、武士が出陣前に自身を守り、戦に勝つための儀式として用いられ、忍者もまた身を守るための呪術として取り入れていました。さらに、日蓮系の法華行者の間でも、特定の九字を用いた作法が伝えられています。
また、戦場で武士が実践したとされる「摩利支天の法」では、右手と左手の指を使って刀と鞘を模した動作で九字を切り、守護本尊である摩利支天への祈りが込められました。
このように、九字護身法は古来からの信仰や修行の中で、心を整えながら自らを守るための実践として、今日に至るまで様々な形で伝えられてきた方法です。
九字切りの目的と効果
九字切りは、古来より様々な場面で実践され、人々の心を支える手法として用いられてきました。主な目的とされる効果は以下の通りです。
- 精神統一
心を落ち着かせ、集中力を高める効果が期待されます。 - 浄化
場所や物、さらには心や体を清めるとされています。 - 護身
悪霊や邪気を払い、心身を守るための手段として信じられています。 - 厄除け
災難や厄災を避け、安心した生活を送るための力があると考えられます。 - 開運
運気を上昇させ、成功や幸福を呼び込む効果が期待されます。 - 守護
悪い気や不運を防ぐ助けとなるだけでなく、実際に心の安心感をもたらす手段ともなっています。 - エネルギーの調整
体内のエネルギーを整えることで、心身のバランスを保つ助けとなる場合もあります。
現代においても、ストレスや不安を感じる時、または集中力を高めたいときに九字切りを行うことで、心身の安定や精神的な成長を促す効果が期待されています。ただし、これらの効果は科学的に明確な根拠があるわけではなく、一種の自己暗示やプラセボ効果として理解される面もあります。九字切りを行いながら「私は安全だ」「私は強い」と自分に言い聞かせることで、実際に心身にポジティブな変化が生まれるのかもしれません。
九字を切ってはいけないと言われる理由
九字切りは、もともと修験道、陰陽師、忍者など、厳しい修行を積んだ専門家たちが扱う高度な技法です。そのため、正しい知識と理解がなければ、期待される効果が得られないばかりか、逆に悪影響を及ぼす可能性があると言われています。
正しい手順を守らずに行うと、精神的なエネルギーが乱れ、場合によっては邪気を引き寄せたり、自身のバランスを崩すリスクもあります。また、科学的な根拠は明確ではありませんが、心の乱れが災いをもたらす可能性があるという考え方も存在します。九字切りは、精神のエネルギーを整える高度な技法であるため、真剣な気持ちと適切な指導のもとで実践することが求められます。安易な気持ちで行うと、思いがけない混乱や不調を招くリスクがあるため、十分な知識と正しい方法をしっかりと身につけることが重要です。
九字の切り方
日本での九字作法は、まず独股印を結びながら口に「臨」と唱えるところから始まります。
続いて、大金剛輪印、外獅子印、内獅子印、外縛印、内縛印、智拳印、日輪印、宝瓶印(隠形印とも呼ばれる)を順に結びながら、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という九字の呪文を唱えます。
最後に、刀印を結び、四縦五横の格子状に線を空中に描きます。道教ではこの方法を「縦横法」と称し、修験道などでは一般に「九字を切る」として伝えられています。
九字の切りの手印
臨(りん)
手印: 独鈷印(とこのいん)
両手の人差し指を直立させ、他の指は曲げて組み合わせる。
兵(ぴょう)
手印: 大金剛輪印(だいこんごうりんのいん)
両手の人差し指を直立させ、中指をその上に重ね、薬指と小指は曲げて組み合わせ、親指も直立させる。
闘(とう)
手印: 外獅子印(げじしのいん)
- 右手の人差し指と中指を、左手の指の間に通します。具体的には、左手の人差し指の上から左手の中指の下に通します。左手の薬指の上を通すイメージです。
- 続いて、右手の中指で左手の人差し指を、左手の中指で右手の人指し指をそれぞれ握ります。
- 最後に、両手の親指を合わせ、薬指、小指の先同士を触れ合わせます。
者(しゃ)
手印: 内獅子印(ないじしのいん)
人差し指と親指を直立させ、その他の指は組み合わせて交差させる。
皆(かい)
手印: 外縛印(げばくのいん)
全ての指を外側に曲げて組み合わせる。
陣(じん)
手印: 内縛印(ないばくのいん)
全ての指を内側に曲げて組み合わせる。
列(れつ)
手印: 智拳印(ちけんのいん)
左手の人差し指を直立させ、右手でその指を握り込み、親指を内側に入れる。
在(ざい)
手印: 日輪印(にちりんのいん)
両手の親指と人差し指で円を作る。
前(ぜん)
手印: 隠形印(おんぎょうのいん)
左手の親指と人差し指で輪を作り、左手の残りの指を軽く握り、右手で左手を包み込む。
刀印
刀印を作り、次に右手(手刀)の指を抜いて、左手は刀印のまま腰に当る。
右手の手刀で九字(臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前)を唱えながら、四縦五横を切る。
九字切りの切る順番は下の画像の通りです。
九字切りの新たな役割 – 意義と可能性
現代社会では、日々のストレスや不安が心に影響を及ぼす中で、伝統的な技法が新たな形で注目されています。九字切りは、厳密な科学的根拠は示されていないものの、心を落ち着かせ、内面を整える手段として利用される可能性があります。以下のような効果が期待され、心豊かな状態を促す一助となるかもしれません。
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心のリセット効果
九字切りの一連の動作に集中することで、日常の雑念を払い、心を静める効果があると考えられます。 -
精神集中と創造力の向上
一定のリズムと動作に意識を向けることで、集中力が高まり、新たなアイデアや発想が生まれる可能性があります。 -
自己内省の促進
自身のエネルギーや感情と向き合う時間を作ることで、自己理解が深まり、精神的な成長につながるかもしれません。 -
心身の調和の実感
儀式的な動作を通じて、体と心のバランスが整い、精神的な安定や安心感が得られる可能性が指摘されています。
このように、九字切りは現代の私たちにとって、単なる古代の儀式を超え、心を整え豊かに生きるための一つの実践法として活用され得るのです。個々の体験や信念に依存する部分はありますが、心の乱れがもたらす悪影響を軽減する手段として、多くの人々がその可能性に期待しています。
まとめ
九字切りは、「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」の九字を用い、刀印や諸印契を結ぶことで、煩悩や魔障、一切の悪魔・魔民を退散させ、災難を除く呪力があるとされる伝統的な修法といわれています。
さらに、精神統一の儀式としても使われています。心を落ち着かせ、正しいものと悪いものを見極める助けとなることで、結果的に悪い影響や邪を遠ざける効果が期待されるかもしれません。
現代においても精神統一や瞑想は、ストレス軽減や冷静な判断力の向上といった心理的効果を通じた安心感の獲得につながる可能性が指摘されていますが、これらの効果は科学的に確定されているわけではなく、個々の体験に依存する面が大きいと言えるでしょう。
- http://gunsoh.fc2web.com/syugyo-2.htm(九字の切り方収め方)
画像:ウィキペディア
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