古文や和歌を読むとき、「かなし」「あはれなり」といった言葉に触れて、その感情がどんな意味を持つのか迷った経験はありませんか?
日本語には、現代語では表しきれない繊細な感情を伝える“古語”が数多く存在します。
恋のときめき、悲しみの余韻、怒りの奥深さ――。
それぞれの古語には、当時の人々が大切にしてきた心の響きが込められています。
ここでは、感情を表す古語の意味やニュアンスを現代の私たちにも伝わる形で紹介します。
感情を表す古語 一覧
古典に登場する感情表現を100語にまとめましたが、同じ語が複数の感情に属する場合もあるため、重複を除くと 70種類前後 となります。
1. 喜びや感動を伝える古語
「うれし」や「めづ」など、古文で使われる喜びや感動を表す古語を一覧で紹介します。
- うれし
現代語と同じく「嬉しい」の意味で使われるが、古文では穏やかでしみじみとした喜びを表現する際に用いられることが多い。 - めづ
「賞賛する」「心ひかれる」「感動する」など多義的な語。感情が深く揺さぶられたときに使われ、『源氏物語』などにも頻出する。 - よろこぶ
喜びの感情を示す基本語。特に身分の昇進や良い知らせを受けた際に使われ、慶賀の表現としても登場する。 - たのし
楽しさや安らぎ、心の満足を表す語で、音楽や自然、美的な体験とともに用いられることが多い。 - うつくし
「可愛い」「愛らしい」といった意味で、幼子や小動物への愛情や喜びを感じる場面で使われる。 - ありがたし
「有り難し」は「めったにないほど素晴らしい」という意味での賞賛や喜びを表し、神仏や徳ある人物に対して使われる。 - をかし
趣がある、興味深い、楽しいといった意味で、『枕草子』で多用される美意識の核となる言葉。喜びや知的な感動も含む。 - うるはし
美しさや整った様子に対する感動や賞賛を含む。「端正で美しい」と感じる気持ちが込められている。 - よし
「良し」「由」とも書かれ、状況や人物に対する肯定的な評価や賞賛を込めて使われる。嬉しさと同時に敬意も含む。 - えならず
「え(得)+ならず」で、「言葉にできないほど素晴らしい」という意味。喜びや感動を超えた絶賛に用いられる。
2. 愛情・恋心を表す古語とその使い方
古典文学には、恋愛感情を表す繊細な古語が豊富に登場します。「かなし」「なつかし」「こひし」など、愛する気持ちや切ない想いを伝える表現を一つひとつ解説し、当時の恋愛観や文化背景にも触れながら紹介します。
- かなし
現代語の「悲しい」ではなく、「いとしい」「愛おしい」という意味で使われ、恋愛感情や親子の愛を表す。 - こひし
恋しく思う、慕わしく思う気持ちを表す語。離れた人への切ない恋心に用いられる。 - なつかし
心が引かれる、親しみを感じるという意味で、直接的な恋よりも柔らかい愛情や好意を含む。 - うつくしみ
「うつくし」に由来し、「愛おしく思う気持ち」を表す名詞。対象への深い愛情を含んでいる。 - めでたし
「めづ(賞賛する)」の形容詞形で、愛情や賞賛の気持ちが高まった状態を表す。恋愛関係における理想的な相手に対して使われることも。 - あいなし
「つまらない」「気に入らない」という否定的な語だが、恋愛においては「愛が報われない」ことへの不満や切なさを含む文脈もある。 - しのぶ
「忍ぶ恋」としても知られ、人に知られないように思いを募らせる切ない愛を表す。恋愛の奥ゆかしさが感じられる語。 - 思ふ(おもふ)
単に「思う」ではなく、恋い慕う気持ちや深い感情を表す。古典の恋愛表現に頻出する基本語。 - 恋ふ(こふ):直接的に「恋い慕う」という意味。会えない相手を強く思う気持ちを表す、最も基本的で重要な恋愛古語。
- いとはし
いとしく、気にかかる、放っておけないといった感情を含み、恋愛関係の中でも守ってあげたい相手への情を示す。
3. 悲しみや寂しさを表す古語の意味と用例
「うし」「わびし」「こころぐるし」など、心の痛みや喪失感を表現する古語を詳しく取り上げます。現代語では一語で表せないような複雑な感情が込められた言葉が多く、文学的な深みを感じさせます。
- うし
「つらい」「情けない」「いやだ」という否定的な感情を表す。人間関係や世の中の無常を嘆くときに使われる。 - わびし
「心細い」「つらい」「侘しい」といった意味で、孤独感や絶望を伴う感情を表す。 - さびし
「寂しい」と同義。人との別れや季節の移ろいなど、静かで物悲しい情景とともに用いられる。 - こころぐるし
「心苦しい」「見ていられない」といった気持ちを表し、他人への共感的な悲しみを含む。 - かなしい
現代語と同じ「悲しい」の意味で使われるが、文脈によっては「愛しい」「情が深い」意味を持つこともある。 - あはれなり
深い共感やしみじみとした感情を含む語。喜び・悲しみどちらにも使われるが、特に無常を感じたときの寂しさと共に多用される。 - いとほし
「かわいそう」「気の毒」といった意味。誰かの不幸や不遇な状況を見たときに生まれる同情の感情。 - かなしび
「悲しみ」の古語的な表現。感情そのものを名詞として扱い、文語詩や和歌にも用いられる。 - つらし
「つらい」という意味だが、特に恋愛や別れなどの文脈で「相手が冷たい」「耐えられない」感情を表す。 - こころうし
「心がつらい」「気が重い」といった状態を示す語で、心情的な苦しみや虚しさを表現する。
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